軽貨物運送事業(黒ナンバー)の点呼は義務|業務前点呼・業務後点呼の実施内容を解説

近年、副業や独立開業の手段として注目を集めている軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)、通称「黒ナンバー」ですが、安全な業務を行うために「点呼」の実施が義務づけられています。
本記事では、業務前点呼・業務後点呼の具体的な実施内容や、ほかの運送事業との違い、さらには黒ナンバーの取得条件や取得方法について詳しく解説します。
これから軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)を始める方や、法令が守れているか不安な方は、本記事の内容を参考に、安全な業務環境を作りましょう。
目次 / このページでわかること
1. そもそも運送業における「点呼」とは?
運送業における「点呼」とは、ドライバーが業務を開始・終了する際に行う、安全確認のための取り組みです。
事故防止や運行の安全を確保するため、点呼は法令で義務づけられており、ドライバーの健康状態や飲酒の有無、運転免許証の所持、車両の異常の有無などを確認し、必要に応じて運行の可否の判断をします。
軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)の場合、排気量125cc以上のバイクも点呼の対象です。
点呼は、営業所ごとにドライバーと担当者が対面で行う必要があり、軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)の場合、個人事業主であっても、事業者本人または家族が行う必要があります。
点呼は毎日行うものであり、おろそかになれば重大事故や違反に直結するため、適切な方法で実施することが重要です。
では、適切な点呼とはどのように実施したら良いのでしょうか?
次章では、法令に基づいた点呼の実施方法についてみていきましょう。
2. 軽貨物運送事業(黒ナンバー)|点呼の実施方法
軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)における点呼には、業務前点呼と業務後点呼があり、それぞれ、ドライバーの健康状態や車両の状態を確認する目的で行われます。
業務前後で点呼の確認項目が異なるため、安全な運行を目指した点呼の実施が重要です。
そこで本章では、法令に基づいた点呼の実施について紹介します。
業務前点呼
業務前点呼で確認すべき項目は主に3つです。
- ドライバーの酒気帯びの有無
- ドライバーの健康状態
- 車両の日常点検
乗務前にドライバーや車両に問題がみられた場合、運行してはいけません。
点呼の際には点呼記録簿を使用しましょう。点呼記録簿のテンプレートは国土交通省のホームページからダウンロード可能です。
参考:
・貨物軽自動車運送事業者の皆様へ(点呼記録簿の例)|国土交通省
・貨物軽自動車運送事業者に対する令和6年法令改正に伴う安全対策強化|国土交通省
業務後点呼
業務後点呼で確認すべき項目は主に2つです。
- ドライバーの酒気帯びの有無
- 車両の状態、道路状況、運行中のトラブルの有無
業務後点呼では、運行中に気になった点やトラブルなどを共有し、次回の運行に反映させることで、ドライバーや車両の安全を確保します。
「台風の接近に伴い、運行ルートの通行止めが発表された」「GW期間中は渋滞が予想されるため、運行ルートを変更する可能性がある」など、具体的な懸念点を記録し、共有しましょう。
3. 軽貨物運送事業(黒ナンバー)のアルコールチェックは義務
軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)のアルコールチェックは義務であり、徹底した安全管理が求められています。
しかし、個人事業主が多い軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)では、アルコールチェックが徹底されていない場合が多く、飲酒運転による交通事故があとを絶ちません。
運送業界全体の信頼低下につながるため、個人事業主であっても法令を遵守したアルコールチェックが求められます。
そこで本章では、適切なアルコールチェックの実施方法や義務化の背景について詳しく紹介します。
アルコールチェック義務化の背景
軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)では、「事業用自動車の飲酒運転を根絶するため」に2011年5月からアルコールチェックが義務化されています。
現在、すべての運送事業者に対してアルコールチェックが義務化されていますが、この背景には、白ナンバートラックの飲酒運転事故が関係しています。
【2016年6月 千葉県で発生した飲酒運転事故の概要】
- 下校途中の小学生の列に白ナンバートラックが突っ込み、児童5人が死傷
- ドライバーの呼気から基準値を超えるアルコールが検出
- 白ナンバーはアルコールチェック義務化の対象外であった
この飲酒運転事故をきっかけに、警視庁や国土交通省で安全対策の強化が行われ、すべての運送事業者に、徹底したアルコールチェックの実施が求められるようになりました。
アルコールチェックの実施方法
運送業におけるアルコールチェックは「目視確認」と「アルコールチェッカーでの測定」を行う必要があります。
目視確認 | ・ドライバーの顔色が悪くないか、紅潮していないか ・呼気からアルコールの匂いがしないか ・ろれつは回っているか ・いつもより声は大きすぎないか など |
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アルコールチェッカーでの測定 | ・呼気中アルコール濃度は0.15mg/l以上でないか ・0.15mg/lに近い数値が出ていないか |
酒気帯び運転の対象となる呼気中アルコール濃度は、0.15mg/l以上ですが、あくまでも処罰の基準であり、数値以下であるから運転が許容されるわけではありません。
アルコールによる影響は個人差があるため、事故のリスクが高まります。目視確認による状態もしっかり加味しましょう。
軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)におけるアルコールチェックでは、法令に基づいて記録を適切に残すことが求められます。
アルコールチェックの記録項目について、以下の関連記事で詳しく紹介していますので、参考にしてください。
4. 軽貨物運送事業の定義|ほかの運送業との違い
軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)は、黒ナンバーの軽自動車を用いて荷物を配送する事業形態で、一般貨物運送事業などとは法的な位置づけや業務内容が異なります。
そこで本章では、軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)の定義や仕事内容、令和7年4月施行の新制度に関するポイント、他の運送業との違いについて、わかりやすく解説します。
正式名称は「貨物軽自動車運送事業」
軽貨物運送事業や黒ナンバーは通称であり、正式名称は「貨物軽自動車運送事業」です。
軽バンや軽トラックなどの軽自動車を使用して荷物を運ぶ事業で、車両の大きさや最大積載量には規定があります。
車輪数 | 3輪以上 |
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大きさ | 長さ3.4m以下×幅1.48m以下×高さ2.0m以下 |
総排気量 | 660cc以下 |
貨物タイプ | 350kg |
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乗用タイプ | (乗車定員 – 乗車人数)× 55kg |
乗用タイプの車両は、最大積載量が車検証に記載されていないため、過積載にならないよう注意しましょう。
また、車両が規定のサイズに収まらない場合は、普通車扱いとなるため、構造変更の届出を行う必要があります。
【令和7年4月1日施行】新制度で義務化された6項目
近年の物流量の増加をきっかけに、軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)の需要が高まり、同時に業務上のトラブルや事故が増加しています。
これにより令和7年4月1日から、軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)の安全対策が強化され、義務化の項目が新たに6つ制定されました。
義務化の6項目は以下のとおりです。
貨物軽自動車安全管理者の講習受講(バイク便を除く) | 貨物軽自動車安全管理者は選任前に加えて、選任後も2年ごとに受講しなければいけません。 |
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貨物軽自動車安全管理者の選任・届出(バイク便を除く) | 営業所ごとに選任し、選任時には法令で定められた事項について、運輸支局等を通じて国土交通大臣に届出しなければいけません。 |
初任運転者等への指導及び適性診断の受診(バイク便を除く) | 法令で定められた初任運転者等の特定の運転者に対して、特別な指導をしなければ、また、適性診断を受診させなければいけません。 |
業務の記録(バイク便を除く) | 法令で定められた項目について記録を作成し、1年間保存しなければいけません。 |
事故の記録 | 事故が発生した場合、その概要や原因、再発防止対策等を記録し、3年間保存しなければいけません。 |
国土交通大臣への事故報告 | 死傷者を生じた事故等について、運輸支局等を通じて国土交通大臣へ報告しなければいけません。 |
上記の項目に加えて、「点呼の実施」「運転者の勤務時間の遵守」「運転者に対する指導及び監督」の徹底が求められます。
事故を防ぐために欠かせない基本的な取り組みなので、法令を遵守した運行管理を徹底しましょう。
軽貨物運送事業の仕事の種類
軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)には、以下のような仕事があります。
- 定期便、ルート配送
- 委託配送、宅配代行
- チャーター便
- スポット便
- 引越し便
車両サイズが小さいことから、比較的小さな軽いものが多く、女性ドライバーが増えています。
さらに近年は、配送に丁寧さ、正確さ、清潔さなどが求められるようになり、女性ドライバーの活躍の場が広がっています。
ほかの運送業との違い
運送業は、人を運ぶ「旅客自動車運送事業」と、荷物を運ぶ「貨物自動車運送事業」の2つに大きく分けられます。
貨物自動車運送事業は、さらに3つに分けられ、「一般貨物自動車運送事業」「特定貨物自動車運送事業」「貨物軽自動車運送事業」があります。
3つの違いは以下のとおりです。
一般貨物自動車運送事業 | 複数の荷主の貨物を有償で運ぶ |
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特定貨物自動車運送事業 | 特定の1社のみの貨物を有償で運ぶ(家電メーカーや鋼鉄メーカーの直輸送、日本郵便やヤマト輸送など) |
貨物軽自動車運送事業 | 軽自動車や125cc超えの自動二輪車を使用して、貨物を有償で運ぶ |
軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)に関しては、開業の手順も異なります。
一般貨物自動車運送事業の場合、営業所を管轄する運輸支局から許可を得る必要がありますが、軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)は届け出るだけで、開業できます。
開業届の提出後は、黒ナンバーを取得する必要があり、取得には条件があるため、事前の準備や余裕を持ったスケジュールの調整が重要です。
関連記事:
『白ナンバーと緑ナンバーの違い|条件やメリット・デメリットを解説』
『運送業許可(一般貨物自動車運送事業許可)を取得するために必要な5つの条件とは?』
5. 軽貨物運送事業(黒ナンバー)の取得方法
軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)は、比較的少ない初期投資で始められることから、副業や独立開業の手段として注目されています。
その際に必要となるのが「黒ナンバー」と呼ばれる事業用ナンバーです。
本記事では、黒ナンバーの取得に必要な条件や取得方法について詳しく解説します。
黒ナンバーの取得条件
黒ナンバーの取得には5つの条件があります。
- 登録する車両が1台以上あること
- 営業所、休憩所があること
- 運送約款を用意していること
- 運行管理等の管理体制を整えていること
- 損害賠償能力があること
これらの条件を満たすことで、黒ナンバーの取得が可能です。
各項目の細かい条件は関連記事で詳しく解説しています。これから個人で軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)の開業を考えている方は、ぜひご参考ください。
黒ナンバーの取得方法
最初に、軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)の開業に必要な書類を運輸支局に提出します。
当日中に、運輸支局から押印された「事業用自動車等連絡書」を受け取り、以下の書類と一緒に軽自動車検査協会に提出しましょう。
【軽自動車協会に提出する書類】
- 事業用自動車等連絡書(押印済み)
- 申請依頼書
- 車検証の原本
- 住民票(個人事業主で、車検証の所有者が自分以外の場合)
- 履歴事項全部証明書(法人で、車検証の所有者が自分以外の場合)
都道府県によっては、運輸支局と軽自動車協会が離れている場合があります。
1日でまとめて手続きを行うことも可能ですが、手続きに時間がかかったり、移動時間がかかったりする可能性があるため、スケジュールには余裕を持たせておきましょう。
黒ナンバーの取得にかかる費用は、ナンバープレートの購入金額の1,500円です。黒ナンバーの取得代行に依頼する場合は2〜4万円程度かかります。
このほか、重量税や自賠責保険料や任意保険料もかかります。
軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)にかかる税金や保険料の詳細は、関連記事で紹介しているので、ご参考ください。
6. まとめ|軽貨物運送事業者も適切な点呼を実施しよう
本記事では、軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)の点呼の実施方法や、義務化の背景、ほかの運送業との違い、黒ナンバーの取得条件や取得方法について解説しました。
軽貨物運送事業(貨物軽自動車運送事業)における点呼は義務であり、安全運行を行うための重要な業務です。
業務前後の体調確認やアルコールチェック、車両点検を行うことで、事故や故障の未然防止につながります。
信頼される運送事業を継続するために、日々の点検を怠らず、安全意識を高めていきましょう。