貨物軽自動車安全管理者とは?業務内容・義務化の背景・罰則を詳しく解説
近年、ネット通販の市場拡大に伴い、物流業界における貨物軽自動車の需要が高まっています。
しかし、同時に増加する事故やトラブルへの対応も求められ、安全管理の徹底が急務となっています。
こうした背景から運送事業者に対して「貨物軽自動車安全管理者の設置」が2025年4月より義務化されます。
そこで本記事では、貨物軽自動車安全管理者の業務内容や義務化の背景、新制度で義務化される6項目や罰則について解説します。
貨物軽自動車の運用に必要な制度を確認し、安全で効率的な業務を目指しましょう。
目次 / このページでわかること
1.貨物軽自動車安全管理者とは?義務化の背景
貨物軽自動車安全管理者とは、新制度で義務化される項目のひとつです。
貨物軽自動車を使用する事業者は、適切な運行管理を行うために貨物軽自動車安全管理者の選任・設置が必要です。
そこで本章では、新制度の概要と貨物軽自動車安全管理者の業務内容、義務化の背景について解説します。
令和7年4月1日施行開始の新制度の概要
令和6年5月に公布された「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」にもとづき、「貨物自動車運送事業運輸安全規則」についても一部改正されました。
新しい「貨物自動車運送事業運輸安全規則」は令和7年4月1日から施行されます。
主な改正内容は以下の6項目です。
- 貨物軽自動車安全管理者の講習受講の義務付け
- 貨物軽自動車安全管理者の選任・届出の義務付け
- 初任運転者などへの指導、監督及び適性診断の義務付け
- 業務記録の作成・保存の義務付け
- 事故記録の作成・保存の義務付け
- 国土交通大臣への事故報告の義務付け
新制度に関する詳しい情報は、国土交通省のウェブサイトにて、リーフレットや動画で公開されています。
今後、新制度への具体的な対応方法をまとめた動画や、各種記録の様式例なども公開される予定です。
また、問い合わせ窓口が令和7年3月31日まで開設されているため、不明な点がある場合は電話もしくはメールで確認しましょう。
貨物軽自動車安全管理者の業務内容
貨物軽自動車安全管理者は、安全運行のための幅広い業務を担います。
主な業務内容は、業務記録の作成と保存、点呼の実施、労働時間の管理、運転者への運転指導や監督です。
また、事故が発生した場合は事故内容を記録し、ただちに国土交通大臣へ報告する義務があります。
令和7年4月1日から、より厳格な安全管理が求められますが、既存の事業者には経過措置として、選任に2年間の猶予が設けられています。
営業所や配置人員の兼ね合いで、早急な対応が難しい場合は、令和9年3月31日までに必ず選任しましょう。
義務化の背景
近年、EC市場規模の拡大により宅配便の取り扱い量が増加し、軽自動車による運送需要が拡大しています。
その一方で、平成28年から令和4年にかけて、保有台数1万台あたりの事業用軽自動車の死亡・重症事故件数は約5割増加しています。
今後もEC市場の拡大が予測されますが、同時にドライバーの高齢化やドライバー不足が進んでいるため、国土交通省は早急に安全対策を講じる必要がありました。
こうした背景から、適切な車両管理や運行管理を徹底するために、貨物軽自動車安全管理者の設置が義務化されました。
2.令和7年4月1日施行|新制度で義務化される6項目
貨物軽自動車運送事業者における重大事故が増加していることをふまえ、令和7年4月1日から新制度が施行されます。
本章では新しく制定された6項目について詳しく解説します。
貨物軽自動車を使用する事業者や、貨物軽自動車安全管理者に選任される方は参考にしてください。
貨物軽自動車安全管理者の講習受講
貨物軽自動車安全管理者に選任予定の方は、「貨物軽自動車安全管理者講習」を受講しなければなりません。
すでに、一般貨物・特定貨物運送事業において、運行管理者として選任されている方であれば、貨物軽自動車安全管理者講習を受けずに選任が可能です。
貨物軽自動車安全管理者に選任後は、2年ごとに国土交通大臣の登録を受けた講習期間で、「貨物軽自動車安全管理者定期講習」を受講しなければなりません。
貨物軽自動車安全管理者の選任・届出
貨物軽自動車運送事業者は、営業所ごとに貨物軽自動車安全管理者を選任しなければなりません。
また、以下の項目について運輸支局に届出が必要です。
- 貨物軽自動車運送事業者の氏名又は名称
- 貨物軽自動車安全管理者の氏名及び生年月日
- 貨物軽自動車安全管理者の選任年月日及び講習修了年月日
初任運転者などへの指導及び適性診断
貨物軽自動車運送事業者は、以下の運転者に対して指導をしなければいけません。
- 初任運転者(これまでに一度も指導及び適性診断を受けていない者)
- 高齢者(65歳以上の者)
- 死者又は負傷者が生じた事故を引き起こした者
さらに、国土交通大臣に認定された適性診断の受診が求められます。
指導及び適性診断の実施期限は、経営届出の時期によって異なります。
- 令和7年3月31日までに貨物軽自動車運送事業の経営届出を行った場合
→令和10年3月までに選任 - 令和7年4月1日以降に貨物軽自動車運送事業の経営届出を行う場合
→速やかに実施
貨物軽自動車安全管理者は、運転者の氏名、指導内容、運転者の適性診断の受診状況などを記載した貨物軽自動車運転台帳を作成し、営業所で保管しなければなりません。
業務記録の作成・保存
貨物軽自動車運送事業者は、業務内容について以下の項目の記録を作成し、1年間保存しなければなりません。
- 運転者の氏名
- 車両番号(ナンバープレートなど)
- 業務の開始、終了及び休憩の日時
- 業務の開始、終了及び休憩の地点
- 業務に従事した距離
- 主な経過地点
事故記録の作成・保存
貨物軽自動車運送事業者は、事故が発生した場合、主に以下の項目などの記録を作成し、3年間保存しなければなりません。
- 乗務員などの氏名
- 事故の発生日時
- 事故の発生場所
- 事故の概要
- 事故の原因
- 再発防止対策
国土交通大臣への事故報告
貨物軽自動車運送事業者は、死傷事故など重大な事故が発生した場合、主に以下の項目について30日以内に、運輸支局などを通じて国土交通大臣に報告しなければなりません。
- 自動車の使用者の氏名又は名称
- 事故の発生日時
- 事故の発生場所
- 当時の状況
- 当時の処置
- 事故の原因
- 再発防止対策
加えて、2人以上の死者を生じた事故など、重大な事故については24時間以内にできるだけ速やかに運輸支局などに報告が求められます。
3.引き続き実施が必要な3つの安全対策
貨物軽自動車安全管理者選任の義務化に伴い、従業者が従来取り組んでいる安全対策の徹底が引き続き求められています。
とくに以下3つは事故を防ぐために欠かせない基本的な取り組みです。
- ・点呼の実施
- ・運転者の勤務時間の遵守
- ・運転者に対する指導及び監督
① 点呼の実施
乗務前の点呼は、引き続き実施が義務付けられています。1人で事業を行っている場合は、自ら確認を行いましょう。
運転者や車両に何らかの問題が確認された場合、運行してはいけません。
また、点呼の内容は「日々点呼記録簿」に記録し、1年間保存しなければなりません。
法令で定められている確認事項 | 確認方法の例 | 実施のタイミング |
---|---|---|
運転者の酒気帯びの有無 | ・アルコールチェッカーを用いて酒気帯びの有無を確認 ・運転者の状態を目視で確認 |
乗務前と乗務後 |
運転者の疾病、疲労、睡眠不足などの理由により、安全な運転ができないおそれの有無 | ・体温、血圧、顔色、呼気の匂い、声の調子などを確認 | 乗務前 |
業務に関わる事業用自動車、道路及び運行の状況 | ・気になる点がなかったか確認 | 乗務後 |
車両の日常点検の実施又はその確認 | ・走行距離をもとに適切な時期に、エンジンルーム、ライト、タイヤ、運転席周りなどを目視で確認 | 乗務前 |
1人で事業を行っている場合、自身や家族による確認を行いましょう。
② 運転者の勤務時間の遵守
安全運行のために以下の内容を守り、運転者に休息を十分に与えましょう。
項目 | 基準 |
---|---|
1年、1か月の拘束時間 | ・1年:3,300時間以内 ・1か月:284時間以内 |
1日の拘束時間 | ・13時間以内(上限15時間、14時間超は週2回までが目安) |
1日の休息時間 | ・継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない |
運転時間 | ・2日平均1日:9時間以内 ・2週間平均1週:44時間以内 |
連続運転時間 | 4時間以内 |
1人で事業を行っている場合は、自ら上記時間の範囲において勤務時間を設定し、法令遵守を徹底しましょう。
③ 運転者に対する指導及び監督
すべての運転者に対して、指導及び監督を毎年実施する必要があります。また、以下の項目を記録し、3年間保存しなければなりません。
- 実施した日時と場所
- 実施内容
- 実施した者と受けた者
貨物軽自動車運送事業者における具体的な実施内容のマニュアルは、国土交通省のウェブぺージで今後公開される予定です。
事業者による交通事故は、企業の社会的責任や信頼性に大きな影響を与えます。引き続き実施が求められる3つの安全対策を適切に行い、事故防止に努めましょう。
4.貨物軽自動車安全管理者に関わる罰則
令和7年4月1日から施行される新制度において、猶予期間以降も対応しない場合、以下の罰則が定められています。
違反内容 | 罰則 |
---|---|
重大な事故を引き起こしたときに報告せず、又は虚偽の報告をした場合 | 50万円以下の過料 |
貨物軽自動車安全管理者を選任する規定に違反した場合 | 100万円以下の罰金 |
貨物軽自動車安全管理者の選任もしくは解任に関わる届出をせず、又は虚偽の届出をした場合 | 100万円以下の罰金 |
貨物軽自動車安全管理者に関する行政処分については、今後、具体的な基準が制定される予定です。
罰則や行政処分が科せられると、会社の信用を失ったり、事業の継続に支障をきたす可能性があります。正式に制定されたら、しっかりと遵守しましょう。
また、貨物軽自動車安全管理者は、事業者の安全な運行を管理する重要な役割があります。運行状況の確認や書類整理といった多岐に渡る作業で時間を要するため、スケジュールに余裕を持って今から準備を進めておくことをおすすめします。
5.貨物軽自動車安全管理者に関するよくある質問
貨物軽自動車安全管理者の選任に伴い、事業者の間では「選任の期限」や「運行管理者との兼務の可否」などの疑問が多く寄せられています。
そこで本章では、よくある質問と回答について紹介します。
貨物軽自動車安全管理者はいつまでに選任が必要?
令和7年3月31日までに貨物軽自動車運送事業の経営届出を行った場合は「令和9年3月31日まで」に選任しなければなりません。
令和7年4月1日以降に貨物軽自動車運送事業の経営届出を行う場合は、届出後から事業を開始するまでに速やかに選任しなければなりません。
運行管理者を貨物軽自動車安全管理者に選任できる?
可能です。ただし、条件があります。
すでに一般・特殊貨物自動車運送事業を経営している場合、運行管理者として選任されている者であれば貨物軽自動車安全管理者講習を受けずに選任が可能です。
道路交通法における安全運転管理者も選任可能ですが、初期講習を受ける必要があります。
なお、貨物軽自動車安全管理者に選任後、他の営業所の貨物軽自動車安全管理者との兼務はできません。
個人事業主も貨物軽自動車安全管理者の選任が必要?
1人で事業を行っている場合、基本的に自身を貨物軽自動車安全管理者に選任する必要があります。
ただし、配偶者や家族従業者からの選任も可能です。
バイク便事業者も貨物軽自動車安全管理者の選任が必要?
バイク便事業者は貨物軽自動車安全管理者の選任義務はありません。
貨物軽自動車安全管理者の選任義務の対象は、「四輪以上の軽自動車を使用して貨物を運送する事業者」に限定されています。
6.まとめ|貨物軽自動車安全管理者を選任し安全運行に努めましょう
本記事では貨物軽自動車安全管理者の概要や義務化の背景、義務化された6項目、よくある質問などについて解説しました。
貨物軽自動車安全管理者の選任は、軽自動車を使用する貨物運送事業者に対して、令和7年4月1日から義務化されます。
増加する物流需要に対応しつつ、交通事故や過労運転を防ぐために必要不可欠な制度です。業務内容は多岐に渡りますが、適切に実施することで、企業の責任を果たし信頼獲得につながります。
安心安全な物流社会を実現するために、新制度への準備を早めに始めましょう。