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【2024年5月15日交付】流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法の改正で何が変わる?

2024年5月15日に流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法の改正がありました。

本改正によって、物流・運送業界ではどのような影響があるのでしょうか?

本記事では昨今、問題にあがっている「2024年問題」にも触れつつ、今回の改正を3つのポイントにまとめています。また、法改正の内容の解説と流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法の根本的な考え方についても紹介し、分かりやすく解説しますので最後までご覧ください。

1.流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法とは?

流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法とはどういったものなのでしょうか?
それぞれ解説します。

流通業務総合効率化法とは?

流通業務総合効率化法とは「流通業務の総合化および効率化の促進に関する法律」のことで、流通業務の総合化および効率化の促進を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的としています。

貨物自動車運送事業法とは?

貨物自動車運送事業法とは、輸送の安全を確保するとともに、貨物自動車運送事業の健全な発達を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とした法律です。

この法律に関係が深いのが黒ナンバーです。貨物自動車運送事業に使用する車両に取り付けられるナンバーであり、取得するためには一定の条件を満たす必要があります。

また黒ナンバー以外にも、白ナンバーと緑ナンバーがあります。それぞれの違いについては下記の関連記事で解説していますのでぜひご覧ください。
関連記事:『白ナンバーと緑ナンバーの違い|条件やメリット・デメリットを解説

次の章では、今回の改正にも関わる貨物自動車運送業界が抱える3つの課題を解説します。

2.貨物自動車運送業界が抱える3つの課題

貨物自動車運送業界が抱える課題は、下記の3つが挙げられます。

  • ①業務効率化への課題
  • ②安全対策の課題
  • ③物流の停滞が危惧される「2024年問題」

1つずつ詳しく解説します。

①業務効率化への課題

貨物自動車運送業界では、業務効率化がたびたび課題として取り上げられています。
業務効率化への課題として、以下3点が挙げられます。

  • 1)高齢化問題
  • 2)人手不足
  • 3)デジタル技術の導入

1)高齢化問題

少子高齢化が社会問題となっておりますが、ドライバーの高齢化も大きな問題になっています。高い運転技術やルートの把握など、経験や技術を必要とします。そのため、ベテランのドライバーに頼るケースも多くあり、主な労働力が高齢者という会社も多くなっています。

2)人手不足

昨今のオンラインショッピングの普及により、運送する物量が大幅に増えています。
過酷な環境や長時間労働、低賃金などで人材獲得が困難になったことにより、ドライバーが不足し深刻な問題になっています。

運送業界のドライバーの確保を考えると、労働環境の改善や柔軟な働き方を可能にするなどの対策が必要になります。

3)デジタル技術の導入

運送業界においても業務効率化を目指し、デジタル化やシステム化が進んでいます。自動化、人工知能、ビッグデータ、管理システムなどが導入されることで効率性や透明性が向上しています。しかし、業務効率化にはシステム、技術の導入には投資や教育の課題があるため、運送業界全体で取り組む必要があります。

②安全対策の課題

運送業界でのドライバー業務は、長時間の運転になることが珍しくありません。
そのため、ドライバーにかかる負担も大きくなります。

大きなトラックで事故を起こしてしまった場合の被害の大きさは計りしれません。
運送会社では安全に業務を遂行するためにも、安全対策が最重要課題の1つと言えるでしょう。

③物流の停滞が危惧される「2024年問題」

「2024年問題」とは働き方改革関連法の適用にともない、物流業界で懸念されているさまざまな問題を指します。2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用され、労働時間が短くなることで輸送能力が不足しドライバーの収入が減少する恐れがあります。

また、ドライバー不足になり輸送能力が低下することで業務が回らなくなります。 そのため、業務の効率化は急務となっています。

トラック運転者の改善基準告示の内容
 2024年3月31日まで2024年4月1日から
1年間の拘束時間3,516時間原則:3,300時間
最大:3,400時間
1か月の拘束時間原則:293時間
最大:320時間
原則:284時間
最大:310時間
1日の休息時間継続8時間継続11時間を基本とし、継続9時間
連続運転時間4時間を超えないこと(30分以上の休憩等の確保、1回10分以上で分割可)4時間を超えないこと(30分以上の休憩の確保、1回概ね10分以上で分割可)
時間外労働の上限規制年間1,176時間年間960時間

参考:公益社団法人 全日本トラック協会「トラック運転者の改善基準告示」「知っていますか?物流の2024年問題

3.流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法改正の目的と背景

2024年5月15日流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法改正がおこなわれました。
これまでも法改正は何回もおこなわれています。

では、今回の法改正の目的や経緯はどういったものなのでしょうか。

  • ・改正の主な目的
  • ・改正に至った経緯

順番に解説していきます。

改正の主な目的は?

物流産業を魅力あるものとするため、働き方改革に関する法律が2024年4月から適用される一方、物流の停滞が懸念される「2024年問題」に直面しています。

こうした状況に対応するため、荷主企業、物流事業者、一般消費者が協力して我が国の物流を支えるための環境整備に向けて、商慣行の見直し、物流の効率化、荷主・消費者の行動変容について抜本的・総合的な対策が必要だと判断され、今回の改正に至ったと考えられます。

改正に至った経緯

流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法改正に至った背景として、以下の2点が考えられます。

①「2024年問題」による物流停滞への懸念

先ほども述べたように、2024年4月からドライバーの労働時間に関する規制が強化されました。今回の規制強化に伴いドライバーの労働時間の短縮・労働力不足により物流が停滞することが懸念されています。
今後短くなった労働時間をカバーするため、物流業務の効率化が求められている状況です。

②軽トラック運送業における死亡・重傷事故の増加

軽トラック運送業では、死亡・重傷事故の件数が大幅に増加しています。
今回の法改正の背景には下記のような記載があります。

軽トラック運送業において、死亡・重傷事故件数が最近6年で倍増しており、安全対策の強化が求められています。

引用元:国土交通省「「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」を閣議決定

軽トラック運送業における死亡・重傷事故の件数を減らすためにも、事業者に対する安全対策規制の強化が重要になります。

4.流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法改正の3つのポイント

流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法改正の3つのポイントを国土交通省の発表資料を引用しつつ、分かりやすく解説します。

  • ①荷主・物流事業者に対する規制
  • ②トラック事業者の取引に対する規制
  • ③軽トラック事業者に対する規制

①荷主・物流事業者に対する規制

荷主・物流事業者に対する規制についても3つの規制が盛り込まれました。それぞれ確認していきます。

  • 1)荷主・物流事業者に対し、物流効率化のために取り組むべき措置として、努力義務を課しており、一定規模の荷主には物流統括管理者の選任を義務付けています
  • 2)取り組み状況についても、国が判断基準に基づき指導・助言・調査・公表を実施
  • 3)事業者のうち、一定規模以上のものを特定事業者として指定。中長期計画の作成や定期報告等の義務付け。中長期計画に基づく取組の実施状況が不十分の場合には、勧告・命令を実施する。

参考:国土交通省「「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」を閣議決定

②トラック事業者の取引に対する規制

トラック事業者の取引についても3つの規制が追加されました。こちらもそれぞれ確認していきます。

  • 1)元請事業者に対し、実運送事業者の名称等を記載した実運送体制管理簿の作成を義務付け。
  • 2)荷主、トラック事業者、利用運送事業者に対し、運送契約の締結等に際して提供する薬務の内容やその対価等について、記載した書面による公布等を義務付けする。
  • 3)荷主、トラック事業者、利用運送事業者に対し、他の事業者の運送の利用の適正化について努力義務を課している。一定規模以上の事業者には、当該適正化に関する管理規定の作成、責任者の選任を義務付け。

参考:国土交通省「「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」を閣議決定

③軽トラック事業者に対する規制

軽トラック事業者に対し3つの義務があります。こちらも確認していきます。

  • 1)必要な法令等の知識を担保するため、貨物自動車安全管理者を選任し、国土交通大臣に届け出る義務。
  • 2)貨物自動車安全管理者に定期講習を受けさせる義務。
  • 3)軽トラック運送業における死亡・重傷事故の抑制策として、国土交通大臣に対する事故報告をする義務。国交省のホームページにおいて、公表対象に軽トラック事業者に係る事故報告・安全確保命令に関する情報を追加。

参考:国土交通省「「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」を閣議決定

 

5.改正により貨物自動車運送業界にどのようなインパクトがあるのか?

今回の法改正で、貨物自動車運送業界にどのような影響があるのでしょうか。
考えられる影響について下記2点が挙げられます。

  • ①軽トラック運送業における死亡・重傷事故の抑制
  • ②「2024年問題」への対応

①軽トラック運送業における死亡・重傷事故の抑制

貨物自動車安全管理者に定期講習を受けさせる義務が今回発生することとなりました。
それに加え、軽トラック運送業における死亡・重傷事故の抑制策として、国土交通大臣に対する事故報告をする義務も追加されました。このことからも軽トラック運送業における死亡・重傷事故を未然に防ぎたい目的が見えてきます。

軽トラック運送業でも事故件数が増えているため、大きな事故を防ぐためにも法改正が足がかりになると考えられます。

②「2024年問題」への対応

法改正の背景のひとつが、トラック運送事業における時間外労働規制の見直しです。
今回の法改正では一定規模の荷主には物流統括管理者の選任を義務付け、元請事業者に対しても実運送事業者の名称等を記載した実運送体制管理簿の作成を義務付けています。 荷主にも元請事業者についても規制が厳しくなっていることがわかります。

トラック運送事業は、多重下請構造から成り立っており、下請事業者は荷主や元請事業者にものを言うのが難しい体質があると言われています。
この体質を変えていくためにも、トラックドライバーの処遇の改善に向けての法改正になると考えられます。

6.まとめ

流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法は、流通業務・事業の運営を正しくおこなうことを目的に、省力化や物流の効率化を計る事業者を国が後押しするための法律です。
物流業界の人手不足や、環境への不可、違反行為といった問題を解決し、日本の国際競争力を高めるために施行・改正されています。

軽トラック運送業においては、死亡・重傷事故件数が最近6年で倍増しており、安全対策の強化が求められています。今後物流業界で大きくシステムが変わっていくことが予想されます。それにより今後、法改正も更におこなわれると考えられます。これからの動きにも注目していきましょう。

株式会社パイ・アール ロゴ

この記事の執筆者

株式会社パイ・アールPAI-R Co., Ltd.

安心・安全な交通社会の実現へ向けてさまざまな課題や解決を探求し、アルコールチェックをはじめドライバーの安全管理や業務管理にまつわるさまざまなお役立ち情報を発信しています。

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