【被害者・加害者】飲酒運転事故において自動車保険は適用される?補償範囲や自己負担額・等級への影響
飲酒運転による交通事故は、刑事処分や行政処分が科されるだけでなく、損害賠償や保険の手続きなど、被害者や加害者ともに大きな負担が発生します。
万が一の事態に備えて、必要な知識を蓄えておきたいところですが、飲酒運転の場合、「被害者はどこまで補償されるのか」「加害者側の自動車保険や健康保険は使えるのか」など、制度の細かい部分は分かりにくい領域です。
そこで本記事では、飲酒運転事故における被害者と加害者の自動車保険の適用範囲や、飲酒運転の罰則、加害者の保険等級への影響、自動車保険に関するよくある質問について詳しく解説します。
なお、実際の補償内容や適用範囲は、契約条件や事故状況によって大きく異なるため、気になる方は、加入している保険会社や代理店、弁護士などの専門家に確認してください。
目次 / この記事でわかること
1. 【被害者・加害者】飲酒運転事故において自動車保険は適用される?

飲酒運転事故では、被害者と加害者で保険の適用範囲が大きく異なります。
被害者は、自賠責保険や加害者側の任意保険により、一定の補償を受けられますが、加害者は対人・対物賠償は支払われるものの、車両保険や人身傷害などが支払われない場合が一般的です。
飲酒運転事故は保険の免責事項に該当するため、補償範囲が複雑化しやすく、分かりづらさを感じる人も少なくありません。
そこで本章では、被害者と加害者それぞれの基本的な補償内容について解説します。
1-1 【被害者】基本的に自動車保険は適用される
飲酒運転の被害者の場合、「被害者救済の観点」から、原則として相手が加入している自賠責保険が適用されます。
また、加害者が任意保険に加入している場合は、「対人・対物賠償保険」も受けることが可能です。
さらに、自分が加入する任意保険も適用されるため、契約内容に応じて「人身傷害保険」「搭乗者傷害保険」「車両保険」による保険金を受け取れます。
ただし、任意保険の場合、もともと補償の対象外とされている人が起こした事故については、飲酒の有無に関わらず、保険金が支払われません。
例えば、「本人・配偶者限定特約」がついた車を、記名被保険者の友人が運転して事故を起こした場合などが該当します。
任意保険の場合は、契約内容に応じて補償範囲が異なるため、確認が必要です。
1-2 【加害者】補償範囲が限られる場合が多い
加害者の場合、被害者への対人・対物賠償は、まず自賠責保険で対人分が支払われ、不足分や対物については、加入している任意保険(対人・対物賠償保険)から支払われます。
ただし、飲酒運転は重大な法令違反にあたるため、保険会社が一度 立て替え て支払った賠償金の一部、または全額を、あとから加害者に求償するケースがあります。
また、加害者自身のケガや車の損害は、約款上、免責扱いとなるため、保険会社から補償が支払われないケースが一般的です。
2. 飲酒運転事故の被害者に適用される保険と補償範囲

飲酒運転事故の被害者になった時、先に知っておきたいのは、「保険でどこまで補償されるのか」という点です。
交通事故では、基本的に自賠責保険が支払われ、そこから不足分を任意保険が補う仕組みです。
飲酒運転事故の場合でも、基本的な仕組みは同じですが、加害者が任意保険に加入していない場合や、運転者が補償対象外だった場合などは、任意保険が適用されないことがあります。
そこで本章では、飲酒運転事故の被害者に適用される保険と補償範囲を詳しく解説します。
2-1 自賠責保険の補償範囲
自賠責保険は、最低限の対人賠償を確保することを目的とした強制保険です。
被害者を救済するために、加害者が加入している自賠責保険から補償を受け取れます。
ただし、補償対象は人身損害に限られるため、車両の物損、修理費、レッカー代など「物」に対する損害は補償の対象外です。
そのため、自賠責でカバーしきれない部分は、加害者が加入する任意保険や、加害者本人が負担する必要があります。
2-2 任意保険の補償範囲
任意保険は、自賠責保険で足りない部分をカバーする役割を担います。
加害者が任意保険に加入している場合は、対人・対物賠償保険を受け取ることが可能です。
また、被害者自身が任意保険に加入している場合は、人身傷害保険や搭乗者傷害保険、車両保険なども受け取れます。
下の表に、飲酒運転事故の被害者になった場合に受け取れる可能性がある保険の一覧をまとめているので、参考にしてみてください。
| 保険の種類 | 補償内容 |
|---|---|
| 対人賠償保険 | 自賠責保険の上乗せ分として、被害者の治療費や慰謝料、休業による収入の損失を補償 |
| 対物賠償保険 | 車や建物、ガードレールなどの修理費を補償 |
| 人身傷害保険 | 被害者の治療費や慰謝料、休業による収入の損失を補償 被害者側が加入する任意保険から支払われる |
| 搭乗者傷害保険(特約) | 契約時に定めた保険金額が支払われる (入院日数や通院日数、後遺症の程度に応じて支払われる) |
| 車両保険 | 契約時に定めた保険金額が支払われる (衝突や接触などの事故による修理費などが支払われる) |
| 弁護士費用保険(特約) | 加害者への損害賠償請求を弁護士に依頼するための費用(相談料、着手金、報酬金など)が補償される |
※実際の補償内容や適用範囲は、契約条件や事故状況によって大きく異なります。加入している保険会社や代理店、弁護士などの専門家に確認するようにしてください。
上記以外にも、健康保険や労災保険が状況に応じて適用されます。
基本的に飲酒運転の被害者には、契約内容に応じてさまざまな補償が適用されます。
ただし、加害者が加入する任意保険において、もともと補償の対象外とされている人が起こした事故については、飲酒の有無に関わらず、保険金が支払われません。(※「本人・配偶者限定特約」がついた車を、記名被保険者の友人が運転して事故を起こした場合など)
万が一、飲酒運転事故の被害者になった場合は、加害者の任意保険の有無や補償内容を早めに確認しておくと安心です。
3. 飲酒運転事故の加害者に適用される保険とリスク

飲酒運転事故の加害者になると、保険の適用範囲が大幅に限られます。
被害者に支払うべき賠償金は自賠責保険から補償されるものの、飲酒運転は約款違反にあたるため、加害者の車の修理費用やケガの治療費については、補償の対象外になることが一般的です。
そこで本章では、加害者の補償範囲を正しく理解するために、適用される保険や飲酒運転のリスクについて詳しく紹介します。
3-1 対人・対物賠償は適用される
任意保険の対人・対物賠償は、被害者救済を優先するため、飲酒運転の場合でも基本的に保険が適用されます。
ただし、あくまでも「被害者側への支払い」が行われるという意味です。
保険会社は約款に基づき、あとから加害者に対して、支払額の一部または全額の求償を行う場合があります。
3-2 車両保険は原則として補償されない
多くの自動車保険では、飲酒運転による加害者の車の損害は、車両保険の対象外です。
飲酒運転は、保険約款の免責事由に該当し、故意または重大な過失と判断されるため、原則として保険金が支払われません。
ただし、契約者と実際の運転者が異なる場合など、例外的に、車両保険が支払われるケースがあります。
例えば、契約者(記名被保険者)の友人が、車を運転して飲酒運転事故を起こした場合は、車両保険が適用される可能性があります。
ただし、実際の飲酒運転者に対して、あとから保険会社から求償が行われるため、実質的に飲酒運転による車の損害は、当事者の全額自己負担となる可能性が高いでしょう。
具体的な取り扱いは、保険会社や商品によって異なるため、約款や担当者への確認が必要です。
3-3 治療に健康保険が使えない
健康保険法では、故意の犯罪行為による負傷に対して、保険給付を行わない、または限定する旨が定められています。
【健康保険法第116条】
被保険者又は被保険者であった者が、事故の故意の犯罪行為により、又は故意に給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に関わる保険給付は 行わない。
引用元:健康保険法|e-GOV法令検索
飲酒運転は重大な交通違反であり、故意性や悪質性が高いと判断されると、健康保険の給付が制限され、通常3割負担のところが、一部または全額自己負担となる場合があります。
加害者は、被害者への賠償や車の修理費用に加え、自分の治療費についても全額自己負担になる可能性があります。
飲酒運転であっても、健康保険が適用されるかどうかは保険者(健保組合や市町村国保)の判断に委ねられるため、詳細は各保険者へ確認してください。
4. 飲酒運転の加害者への罰則

飲酒運転は、道路交通法に基づく厳しい行政処分や刑事処分の対象です。
加害者は、被害者への賠償や車の修理費用、自分の治療費など、大きな経済的負担を負いますが、罰金の支払いも生じます。
なお、飲酒運転には2種類あり、ドライバーの 酔いの程度 や呼気中のアルコール濃度によって処分内容が異なります。
そこで本章では、飲酒運転の種類や、行政処分と刑事処分の概要について解説します。
4-1 飲酒運転の違反は2種類
飲酒運転は、「酒酔い運転」と「酒気帯び運転」の2つに分類されます。
【酒酔い運転】
アルコール濃度の数値に関係なく、アルコールの影響で正常な運転ができないおそれがある状態で運転した場合(「まっすぐに歩けない」「受け答えがおかしい」など、認知能力低下の有無で判断される)
【酒気帯び運転】
呼気中のアルコール濃度が0.15mg/l以上含まれる状態で運転した場合(0.25mg/l以上の場合は、処分内容がより重くなる)
呼気中のアルコール濃度が処分対象の値に満たない場合でも、体質によって酒酔い運転に該当することもあります。
お酒に弱い体質の方は、少量のアルコールでも影響を受けていたり、前日に摂取したアルコールが体に残っている可能性があるため、アルコールチェッカーなどを使用して、飲酒運転に該当しないか確認することが大切です。
4-2 飲酒運転の行政処分
行政処分は、将来の危険を防止する目的で、行政機関が科す罰則です。
飲酒運転の行政処分には、「免許停止」と「免許取り消し」の2種類があり、違反点数に応じて処分内容や期間が確定します。
| 飲酒運転の種別 | 行政処分 | 違反点数 |
|---|---|---|
| 酒酔い運転 | 免許取り消し(欠格期間3年)※ | 35点 |
| 酒気帯び運転 (呼気中アルコール濃度が0.15mg/l以上0.25mg/l未満) |
免許停止(停止期間90日) | 13点 |
| 酒気帯び運転 (呼気中アルコール濃度が0.25mg/l以上) |
免許取り消し(欠格期間2年) | 25点 |
※欠格期間とは、運転免許が取り消された場合に運転免許を取得できない期間
呼気中のアルコール濃度0.25mg/l以上、または酒酔い運転と判断された場合、即座に免許取り消しとなり、再取得までの欠格期間が2〜3年に及びます。
通勤や通学で車が必要な人にとって、日常生活に支障が出ることは避けられません。
前歴やほかの違反歴によっては、さらに期間が伸びる可能性もあります。
4-3 飲酒運転の刑事処分
刑事処分は、犯罪行為に対して裁判所が科す罰則です。
酒酔い運転の場合、「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」、酒気帯び運転の場合、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されます。
人身事故を伴う場合は、危険運転致死傷罪などが適用され、さらに重い罰則が科される可能性があります。
なお、飲酒運転の事実を知りながら、同乗した場合も罰則の対象です。
飲酒運転の種類に応じて、酒酔い運転の場合は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」、酒気帯び運転の場合は「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」が同乗者に科されます。
5. 飲酒運転での事故が等級・保険料に与える影響

飲酒運転による事故で、対人・対物賠償が適用された場合は、事故1件につき3等級ダウンするため、翌年度の保険料が大きく上がり、契約内容や保険会社によっては、2倍前後に上がることがあります。
さらに、事故を起こした日から3年間は「事故有」の係数が適用されるため、無事故の場合と比べて割増された保険料が適用されます。
飲酒運転による代償は、一時的な保険料の上昇だけにとどまりません。
通常の人身・物損事故の場合は、3年経過後に事故有係数が外れ、無事故と同じように等級が上がっていきますが、飲酒運転の場合は、保険会社が更新を断る、契約条件を制限する可能性があります。
等級だけでなく、「そもそも保険に入りにくくなるリスク」がある点も覚えておきましょう。
6.【Q&A】飲酒運転と自動車保険に関するよくある質問

飲酒運転による交通事故の場合、保険の契約内容や約款を読んでも、分かりづらい部分が多いのが難点です。
そこで本章では、飲酒運転と保険に関するよくある質問について、Q&A形式で詳しく解説します。
なお、保険会社や契約内容により最終的な補償範囲が異なるため、不明点がある場合は加入している保険会社の担当窓口へ連絡してください。
飲酒運転による事故において同乗者に保険は適用される?
一般的には、加害者側の同乗者も、自賠責保険や加害者の対人賠償保険、人身傷害保険・搭乗者傷害保険などの対象です。
ただし、明らかに飲酒運転と知りながら同乗した場合など、同乗者にも過失があると判断されると、慰謝料などの賠償額や保険金が減額される可能性があります。
どこからが「重大な過失」にあたるかはケースごとに判断が異なるため、事故後は早めに保険会社や専門家に相談し、補償範囲を確認しましょう。
また、被害者側の同乗者も補償を受けられますが、加害者側の保険だけでなく、自分や家族が加入している人身傷害保険・搭乗者傷害保険が適用される場合もあります。
飲酒運転事故後、いつ保険会社に連絡すれば良い?
事故発生直後は、人命救助と警察への通報を最優先に行った上で、できるだけ早く保険会社に連絡することが推奨されます。
多くの保険会社は、24時間受付の事故受付窓口を設けており、初動対応や今後の手順について案内してくれます。
報告が遅れると、事実関係の確認が難しくなり、保険金の支払いに影響する場合もあるため注意が必要です。
飲酒運転が絡む場合、加害者は飲酒の事実を隠さず正直に状況を伝えることが、その後のトラブル防止につながります。
免許停止・取り消しになると保険契約はどうなる?
飲酒運転事故により、免許停止や取り消し処分を受けた場合、自動車保険契約が自動的に消滅するわけではありません。
ただし、運転免許が無効な期間に運転した場合、無免許運転に該当するため、さらに重い罰則を受ける可能性があります。
無免許運転で事故を起こした場合、被害者への対人・対物賠償は支払われるのが一般的ですが、本人のケガや車の損害に対する補償(人身傷害保険・車両保険など)は免責となるのが一般的です。
また、更新時には保険会社が契約を断る、補償内容を制限するなどの対応を取る可能性もあります。
免許取消しや長期の停止処分を受けた場合は、車の運転を控えるとともに、契約の継続・中断や等級の扱いについて、保険会社へ早めに相談しましょう。
夫婦・家族限定特約はどうなる?
夫婦・家族限定特約とは、記名被保険者と配偶者や同居家族などを補償の対象とする自動車保険です。
例えば、夫婦限定特約で、配偶者が飲酒運転により免許停止になった場合、直ちに特約が外れるわけではありませんが、飲酒運転をきっかけに、保険会社から補償範囲の見直しを提案されるケースもあります。
夫婦・家族限定特約を利用している場合は、飲酒運転事故による処分内容に応じて、当事者本人が運転しないことを約束したうえで、記名被保険者や運転者条件の変更を行うことが大切です。
7. まとめ|飲酒運転は重大違反!保険では埋まらない代償を理解しよう
本記事では、飲酒運転事故における被害者と加害者の自動車保険の適用範囲や、飲酒運転の罰則、加害者の保険等級への影響について解説しました。
飲酒運転の場合、車両保険・人身傷害保険が使えず、健康保険の給付制限も受けると、数百万円単位の治療費や修理費を自己負担しなければならないケースもあります。
飲酒運転事故では、被害者に自賠責保険や任意保険が適用される一方で、加害者は車両保険や人身傷害保険が使えない、健康保険の給付が制限されるなど、補償範囲が大きく狭まる場合があります。
また、免許停止や取り消しなどの行政処分や、拘禁刑や罰金刑などの刑事処分、多額の損害賠償や保険の更新拒否など、その後の人生にまで影響する事態となりかねません。
飲酒運転が重大な違反行為であることを認識し、飲酒後に移動する場合は、代行やタクシー、バスや電車などの公共交通機関を利用しましょう。


