飲酒運転において飲食店(居酒屋)の責任はどこまで?お客様が飲酒運転した場合の罰則と防止策

飲酒運転は重大な交通違反であり、加害者だけでなく、周囲の人にも厳しく責任が追及されます。
居酒屋などの飲食店では、お客様が飲酒後に運転することがないよう、配慮が求められていますが、適切な対応を怠り、お客様が飲酒運転をした場合、飲食店も罪に問われる可能性があります。
そこで本記事では、万が一お客様が飲酒運転をした場合、飲食店が負う可能性のある法的責任や罰則、飲食店が取るべき防止策について詳しく解説します。
「知らなかった」では済まされません。飲酒運転による悲惨な事故を防ぐため、飲食店が果たすべき役割を一緒に考えてみましょう。
目次 / このページでわかること
1. 飲酒運転に関わった人への罰則|飲食店(居酒屋)はどうなる?
飲酒運転は運転者本人だけでなく、関与した第三者にも、場合によっては厳しい罰則が科される場合があります。
酒類を提供する飲食店や居酒屋などは、その責任を軽視できません。
お客様が飲酒後に運転することを知りながら酒類を提供した場合、法的責任を問われることがあり、店舗経営に大きな影響を与える可能性も考えられます。
本章では、飲酒運転に関わった人が問われる責任や罰則について詳しく解説します。
車両提供罪の罰則
飲酒運転をするおそれがある人に対して、車両を提供した人は「車両提供罪」に該当します。
罰則内容は、飲酒運転の種類によって異なります。
運転者が酒気帯び運転をした場合 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
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運転者が酒酔い運転をした場合 | 5年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
自動車に限らず、自転車や電動キックボード、原動機付自転車(モペット)なども飲酒運転の取り締まりの対象です。
参考:飲酒運転の罰則等|警視庁
酒類提供罪・同乗罪の罰則
飲酒運転をする可能性のある人に酒類を提供した場合や、飲酒運転と知りながら同乗した場合、「酒類提供罪」や「同乗罪」として処罰されます。
罰則内容は、飲酒運転の種類によって異なります。
運転者が酒気帯び運転をした場合 | 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 |
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運転者が酒酔い運転をした場合 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
お酒を提供する飲食店や居酒屋の場合、飲酒運転の可能性を感じたら、酒類の提供を行ってはいけません。
仲の良い常連客だとしても、「近所だから」「一杯だけ」という理由でお酒をすすめることは酒類提供罪に該当します。
悪質な場合、懲役や罰金刑だけでは済まない可能性があります。
飲食店店主が免許取り消しになる可能性も
過去の飲酒運転事故では、酒類を提供した飲食店の従業員に対して、免許取り消しの行政処分が科されています。
【事例】
2011年12月、兵庫県で飲酒後に運転した男性が居眠り運転を起こし、皆既月食を見に来ていた兄弟2人をはねて死亡させた。
男性には懲役14年、酒を提供した飲食店店主には運転免許取消処分が科された。
上記の事例では 、飲酒運転を知りながら酒を提供したとみなされ、社会的責任が科せられました。
風評被害や行政処分によって営業停止や廃業に追い込まれることも考えられるため、飲食店としてのコンプライアンスを守る意識が不可欠です。
参考:【飲酒運転の事故事例】”ほう助”で懲役2年 店主も免許取消に!|オリコン顧客満足度ランキング 自動車保険ニュース(株式会社oricon ME)
2. タイミング別|飲食店(居酒屋)が確認すべきこと
飲食店における飲酒運転防止への取り組みには、来店時、提供時、退店時のタイミングで、お客様の状態をしっかり確認することが重要です。
本章では、飲酒運転を防ぐために飲食店が実施すべき確認内容を、タイミング別で分かりやすく解説します。
来店時の確認
来店時には、「お客様が車で来店しているかどうか」を必ず最初に確認しましょう。
車を利用して1人で来店したお客様の場合、あらかじめ「運転代行を利用するか、ご家族やご友人に迎えに来ていただかない限りは、アルコールの提供は行わない」旨を伝えましょう。
お客様への尋ね方は、POP掲示による指差し確認や、口頭確認などがありますが、対応しやすい形での実施を検討してください。
業務負担は増えますが、運転代行業者への連絡は、お客様に任せず、飲食店側が行う方が確実です。あらかじめ、近隣の運転代行業者の連絡先をリスト化しておきましょう。
グループ客の場合、「帰りはどなたが運転なさいますか?」と声かけし、運転者を確認しましょう。
また、同じグループのお客様には、運転者にお酒をすすめないようお願いしましょう。
提供時の確認
来店時に対応したお客様が飲酒していた場合、「運転代行を呼ぶか、誰かに迎えに来てもらうか」を確認しましょう。
グループで来店し、運転を指名されたお客様が飲酒していた場合は、グループの中で飲酒していない人に運転をお願いしましょう。
もしグループ全員が飲酒していた場合は、「運転代行を呼ぶか、誰かに迎えに来てもらうか」を確認してください。
確認がとれない場合は、それ以上お酒を出してはいけません。飲食店の責任者と協力の上、粘り強く説得してください。
退店時の確認
ラストオーダーやお会計の際に、来店時に確認した帰宅手段(代行・迎えなど)を守るよう、お客様に声をかけましょう。
飲酒したにもかかわらず、運転して帰ろうとする場合は、飲食店の責任者と協力の上、説得を続けてください。
説得に応じない場合は、車種、ナンバーなどを控えて、110番通報や最寄りの警察署に通報しましょう。
ここまで実施できている飲食店が決して多いとは言えませんが、安全とお店のリスクヘッジのため、実施を前向きに検討することをおすすめします。
3. 飲食店(居酒屋)が実施すべき飲酒運転の防止対策
飲酒運転を未然に防ぐには、飲食店側の積極的な取り組みが欠かせません。
本章では、飲食店がすぐに導入できる防止策として、以下の3つの方法を紹介します。
- ・ハンドルキーパー運動
- ・グラスの使い分け
- ・掲示物による注意喚起
お客様の安全を守りつつ、お店への信頼向上にもつながるので、ぜひ参考にしてください。
ハンドルキーパー運動に取り組む
ハンドルキーパー運動とは、仲間同士や飲食店の協力を得て、飲まない人(ハンドルキーパー)を決め、その人が仲間を自宅まで送り届ける取り組みです。
来店時や注文時にハンドルキーパーを確認し、バッジやリボンを渡したり、目印となるステッカーやコースターを席に置きましょう。
ハンドルキーパーの方も楽しめるように、ドリンクの飲み放題や割引を適用する飲食店もあります。
アルコールとソフトドリンクのグラスを分ける
アルコールとソフトドリンクを同じようなグラスで提供すると、運転予定の人が誤ってアルコールを口にするリスクがあります。
こうした事故を防ぐために、飲食店ではグラスを使い分けることが重要です。
見た目で区別しやすく工夫することで、店側もお客様も安心して飲食を楽しめる環境を整えられます。
ステッカーやポスターを掲示して注意喚起する
店内に「飲酒運転禁止!」「飲酒運転は絶対にダメ!」といった文言が書かれたポスターやステッカーを客席やトイレ、レジ横などに掲示することも、有効な防止策です。
視覚的な訴求は、お客様の意識に強く残り、抑止力につながります。
一部の自治体や企業、警察などのホームページでは、飲酒運転防止のポスターを無料でダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
参考:
・交通安全啓発ポスター・リーフレット|警察庁
・飲酒運転禁止POP(車&自転車ver)無料配布のお知らせ(PDF)|株式会社 名畑
4. 飲酒運転による事故の発生状況と運転手への罰則
飲酒運転は依然として深刻な社会問題であり、毎年多数の死亡・重傷事故が発生しています。
そこで本章では、飲酒運転の危険性や重大性を改めて理解するために、2024年の統計データをもとに、飲酒運転による事故の発生状況や、運転手に科される罰則について解説します。
2024年|飲酒運転による事故の発生状況
飲酒運転による事故件数は年々減少しているものの、依然として飲酒運転による悲惨な事故は発生しており、2024年中の飲酒運転事故は2,346件で、そのうち死亡事故は140件であり、前年と比べて28件(25%)増加しています。
死亡事故率は、飲酒していない状態に比べて7.4倍も高く、飲酒運転は死亡事故のリスクが非常に高いことが分かります。
飲酒運転による死亡事故では、以下のような特徴がみられます。
【飲酒運転による死亡事故の特徴】
- 22時から6時までが全体の約6割を占める
- 年齢層別の免許保有者10万人あたりの死亡事故件数は、30歳未満の年代で多い
- 単独事故が6割を占める
- 死者数の約7割は運転者と同乗者だが、第三者の死者数も約3割に上る
飲酒運転は、ドライバーの過信や油断が原因のひとつです。
「飲酒量が少ないから大丈夫だと思った」「目的地が近かった」「少し寝たから大丈夫だと思った」など、安易な理由で飲酒運転を行うケースが多くみられます。
アルコールを提供する飲食店は、こうした背景を従業員に共有し、防止対策を徹底させる意識づけを行うことが重要です。
また、過去事例を共有することで、飲酒運転の危険性や重大性をより理解できます。
警察や全日本トラック協会では、過去に発生した飲酒運転による死亡事故を掲載していますので、あわせて参考にしてください。
参考:
・過去の重大飲酒運転事件|福岡県警察ホームページ
・事業用トラックの飲酒事故例|全日本トラック協会
・飲酒運転は絶対に「しない!」「させない!」|政府広報オンライン
運転手に対する飲酒運転の罰則
運転手には、「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」の区別により、それぞれ厳しい罰則が下されます。
酒気帯び運転 | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
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酒酔い運転 | 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
酒気帯び運転(呼気1リットル中のアルコール濃度0.15mg以上0.25mg未満) | ・違反点数13点 ・免許停止(停止期間90日) |
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酒気帯び運転(呼気1リットル中のアルコール濃度0.25mg以上) | ・違反点数25点 ・免許取消(欠格期間2年※) |
酒酔い運転(数値の判断ではない) | ・違反点数35点 ・免許取消(欠格期間3年※) |
※欠格期間とは、運転免許を再取得できない期間をいう。
酒酔い運転は、アルコール濃度とは関係なく、客観的に見て、酔っ払って正常な運転ができないと判断された状態を指します。
死亡事故を起こした場合は、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪が適用されます。
過失運転致死傷罪 | 致死:1年以上の懲役(最高で20年) 致傷:15年以下の懲役 |
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危険運転致死傷罪 | 7年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金 |
飲酒運転は運転手だけでなく、車両を提供した人や同乗者、アルコールの提供者にも厳しい罰則が科せられます。
「少しくらいなら大丈夫だろう」という安易な考えは重大事故につながるため、ひとり一人が飲酒運転をしない!させない!という意識を強く持つことが大切です。
関連記事:『【2024年】飲酒運転の概要と現状について|罰則と行政処分・防止するためにできること』
参考:
・飲酒運転の罰則等|警視庁
・「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が施行されました|警視庁
5. 運転しなくても有罪に|飲酒運転周辺者三罪とは?
何度もお伝えしているとおり、飲酒運転の責任は、運転した本人だけにとどまらず、飲酒運転を助長・容認した「周辺者」にも、厳しい罰則が科されます。
飲酒運転に関わった人に対する罰則は、「車両提供罪」「酒類提供罪」「飲酒運転同乗罪」の3つで、これらは「飲酒運転周辺者三罪」と呼ばれます。
本章では、それぞれの罪に基づく法律や過去事例について紹介します。
車両提供罪
【道路交通法第65条第2項】
何人も、酒気を帯びている者で、前項(第1項:何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない)の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。
引用元:道路交通法第65条第2項(酒気帯び運転等の禁止)|e-Gov 法令検索
【車両提供罪の過去事例】
居酒屋に軽自動車が突っ込み男性3名が死亡。
知人の飲酒を知りながら車を提供した者に、車両提供罪として懲役10か月・執行猶予3年の判決(神奈川県横浜市)
車両提供罪は、飲酒の事実を把握しながら、運転者に対して自動車や自転車などの車両を貸したり、車の鍵を渡した場合に適用されます。
飲酒運転の可能性があると感じた時点で、車を貸したり、鍵を渡したりしないように注意しましょう。
酒類提供罪
【道路交通法第65条第3項】
何人も、第一項(何人も酒気を帯びて車両等を運転してはならない)の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。
引用元:道路交通法第65条第3項(酒気帯び運転等の禁止)|e-Gov 法令検索
【酒類提供罪の過去事例】
飲食店を経営する店主が、客が車で来店しているのを知りながら、店内において日本酒、ビール等を提供し、酒類提供罪として2年間の運転免許取消し(東京都調布市)
酒類提供罪は、お客様が運転することを伝えているにもかかわらず「近所だから」「バレなければ大丈夫」「ちょっとだけ」などと言って、お酒をすすめた場合に適用されます。
運転することを完全に知らなかった状態でお酒をすすめたり、お酌を行った場合は該当しません。
「おそれがある」という文言からわかるように、飲酒運転の可能性がある人へのアルコール提供は厳禁です。
特に飲食店の場合、来店者に「車で来たのか?」「帰りはどうやって帰るのか?」を確認し、リスク管理を徹底しましょう。
飲酒運転同乗罪
【道路交通法第65条第4項】
何人も、車両(中略)の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項(何人も酒気を帯びて車両等を運転してはならない)の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。
引用元:道路交通法第65条第4項(酒気帯び運転等の禁止)|e-Gov 法令検索
【飲酒運転同乗罪の過去事例】
知人が酒を飲んでいることを知りながら、車の助手席に乗り込み、二次会の場所まで送るよう依頼し、同乗した者が、同乗罪で2年間の運転免許取消(東京都葛飾区)
飲酒運転同乗罪は、「お酒を飲んでいるところを見た」「運転手からアルコールの匂いがすることに気づいていた」「酔っている様子に気づいていた」という場合に適用されます。
「運転者が飲酒していたことに気づかなかった」と主張しても、狭い車内の状況から、その言い分は受け入れられにくいと言われ、同乗者が運転免許を持っていない場合でも罰則の対象になります。
以下の関連記事では、飲酒運転同乗罪について詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
6. 自転車や電動モビリティも罰則対象
近年、電動キックボードやモペットなどの電動モビリティの普及がすすむ中で、飲酒運転も問題になっています。
道路交通法では、自転車や電動モビリティも車両に分類されるため、飲酒運転を行った場合は罰則の対象になります。
飲食店で働く方の中には、通勤や買い出しに自転車を利用するケースも多いでしょう。
しかし、勤務中や勤務後に飲酒する可能性がある場合は、自転車での移動は避け、公共交通機関など別の手段を選ぶことが大切です。
もし飲酒後に急な買い出しが発生した場合は、徒歩で向かうか、飲酒していない他の人に依頼するよう心がけましょう。
以下の関連記事では、自転車・モペット・電動キックボードにおける飲酒運転の罰則について紹介しています。それぞれの交通ルールや車両区分も合わせてご確認ください。
関連記事:
『自転車で飲酒運転した場合の罰則は?免許停止や事故を起こした場合の対処について』
『モペットは自転車ではない|取り締まり強化の背景と罰則・罰金について解説』
『飲酒した状態で電動キックボードに乗るのは交通違反|罰則や事故の事例を紹介』
7. まとめ|飲食店側も飲酒運転防止の取り組みを徹底しよう
本記事では、飲酒運転に関わった人への罰則や、飲食店が負う法的責任、飲食店が取るべき防止策などを紹介しました。
飲酒運転は命に関わる重大な犯罪であり、飲食店にも防止に向けた積極的な取り組みが求められています。
たとえ直接の加害者ではなくとも、提供する立場として責任が問われる可能性はゼロではありません。
スタッフによる声かけや運転代行業者との連携、ポスターの掲示など、できることは多くあります。
お客様と社会の安全を守るために、飲食店側が主体的に対策を講じ、飲酒運転ゼロを目指していきましょう。